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クリエイターインタビュー

『戦場のヴァルキュリア』チーフプロデューサー 西野陽氏

分岐点は『サクラ大戦』。この作品への参加が、セガにおける立ち位置を決めた。

西野陽氏
AKIRA NISHINO

1968年11月19日生まれ。徳島県出身。大学卒業後セガに入社し、以降セガ一筋で現在にいたる。メガドライブ時代からコンシューマ用ゲームの制作に数多く携わり、『サクラ大戦 花組対戦コラムス』、『サクラ大戦2』〜『サクラ大戦4』ではディレクターとして活躍。現在は第二GE研究開発部部長としてプロデュース的な仕事がメイン。『戦場のヴァルキュリア』でもチーフプロデューサーを担当している。

なお、西野氏が束ねる第二GE研究開発部では、「次世代クリエイターインタビュー」に登場している本山真二氏も所属している。
次世代クリエイターインタビュー
本山氏によるセミナーの様子はこちら

――まず、西野さんが初めてゲームに触れた頃のお話からお聞かせください。

西野陽氏(以下:西野氏):記憶として強烈に残っているのは、小学生の低学年の頃です。当時、家族でグアム旅行に行ったんですが、そこで保安官が出てきて敵を撃つというゲームをやったのが最初じゃないかな。その後は、『テーブルテニス』や『ホッケー』ができるゲーム機を買ってもらってやってました。さすがに『PON』は知らないけど、『スペースインベーダー』以前のテレビゲームというものが存在し始めてから、ずっとヘビーにやっている感じですね。そこからアーケードゲーム、コンシューマゲーム、PCと片っ端からやってました。テーブルトークRPGもやったし、とにかくゲームと名の付くものはすべてやってました(笑)。

――それだけヘビーなゲーマーだった西野さんにとって、ゲーム業界入りする以前で印象に残っていることは?

西野氏:NECのPC-8801というパソコンでプレイした『ザ・ブラックオニキス』ですかね。あれでRPGというものに初めて出会って、「なんて面白いんだ!」と衝撃を受けました。今考えると、ダンジョンがあってモンスターがいるだけのゲームなんですけどね。マニアックな話をすると、比較的序盤のダンジョンに井戸があって、そこから最下層に行けるんですが、そこにはめちゃめちゃ強いクラーケンというモンスターがいるんです。今思うと、序盤でいきなりそんなところに行けるのって要はショートカットなんですけど、ずっとそこを正規ルートだと思っていたんですね。しかたがないので、ちょっとだけ出てくる弱いモンスターをずっと倒し続けてレベルを上げ、結局クラーケンも倒しましたよ。

――某ゲームで言えば、スライムだけ倒し続けてボスに挑むみたいなものですね。相当な労力だったでしょう(笑)。ゲームが好きだということは、すごく伝わりました。そんな西野さんが、初めてゲーム作りを意識したのは?

西野氏:ゲームクリエイターとしての芽生えということでは、PCがきっかけですね。当時の雑誌には機械語(プログラミング言語の一種。CPUが直接理解できる最も基本的な言語)などのリストが載っていて、それを打ち込むとゲームが遊べたり、自分でプログラムを組むとゲームらしきものができたりした。その時にゲームを作ることを強く意識しました。

――では、ゲーム業界を目指すのも、当然のなりゆきで?

西野氏:パソコンでプログラムを組めば作り手に回れると思ってから、当時のゲームショップに出入りしてた4、5人ぐらいの仲間を集めてゲームを作り始めました。PC-8801でアドベンチャーゲームを作ったのが最初です。とにかくゲーム作りを仕事にしたいと思っていたので、就職活動の時にSEとかも受けましたけど、ほぼゲーム業界一筋でした。

――それでセガに入社した訳ですね。当時の状況は、どんな感じでしたか?

西野氏:私が入社した時代は、バブル期だったこともあり、ゲーム業界への門戸は広かったと思います。当時のセガは、メガドライブがメインで、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』第1弾が、ちょうど発売された年です。最近のゲームクリエイターは、会社を変わるケースも多いですが、私の場合はずっとセガ一筋です(笑)。

――当時のセガは、西野さんの目から見てどんなメーカーだったんですか?

西野氏:入社した頃は、家庭用ゲーム機もアーケードゲーム機も作って、なおかつそこでアクの強いゲームを発表してた。体感ゲーム(ハングオン、スペースハリアーに代表される大型筐体のシリーズ)もそうですが、かなり異彩を放つゲームが多く、ここなら自由にいろんなゲームが作れそうだと思ったことを覚えています。

――入社してからは、どのようなキャリアを積まれたのですか?

西野氏:流れの中でアーケードを作ったこともありますが、入社してから基本的にはコンシューマ用をずっとやってます。最初の仕事は、メガドライブとモデムを使ったデータ配信サービス『ゲーム図書館』で携わった『ファンタシースターIIテキストアドベンチャー ネイの章』です。そのゲームのセリフやメッセージなどのテキスト調整を担当しました。実は、今度発売される『ファンタシースター コンプリートコレクション』に、それが収録されるんですが、ひそかに買おうと思ってます(笑)。

――メガドライブの当時に、データ配信サービスですか?

西野氏:そうです。セガは、何事も早すぎるとよく言われるんですよねぇ(笑)。

――では、西野さんに一番影響を与えたお仕事はなんですか?

西野氏:やはり分岐点になったのは『サクラ大戦』でしょう。関わったのは『花組対戦コラムス』以降ですが、この作品との出会いが、セガにおける私の立ち位置を決めたと思ってます。

――セガの中でも特別なタイトルだと思います。この作品のどんな部分がすごかったのでしょうか?

西野氏:まずこれまでのセガでは、外部からビッグネームのクリエイターを、ここまで集めたプロジェクトはなかったという部分です。広井王子さんたち有力クリエイターとセガの開発チームとのタッグが、それまでなかったゲームを生み出したきっかけになったと思います。

――今までにはないプロジェクトということで、ご苦労はありましたか?

西野氏:トップクリエイターのエッセンスを集めてゲームにするのですが、最後にまとめるのはゲーム屋であるセガです。どんなにいい材料を集めても、料理人であるセガが下手だったらおいしい料理にはならない。そのプレッシャーと苦労はありました。

――『サクラ大戦』に関わって感じたことはありますか?

西野氏:人にはオーラがあるということを知りました。広井王子さんたちに会うと、存在感というか空気が違うのを感じましたね。その時に、ビッグネームと言われる人はまとっているオーラが違うなあと感じましたよ。

『戦場のヴァルキュリア』は、PS3の登場で今の形になった。

――現在はチーフプロデューサーとして全体を統括する立場ですが、ゲーム作りにおいて時代の変化を感じることはありますか?

西野氏:作り手として、ゲーム制作に対する考え方は変わりましたね。昔は、ゲームのルールを作って、それを満たしたものを作ればゲームが成立した。でも、今は世界そのものを作る仕事になっています。単にゲームのルールを作るだけじゃなく、ルールの周辺にある世界そのものを構築するという作り方になってます。特にハイエンドなゲーム機は、それが如実になってきている。当然、ひとつのゲームを作るにも考証や設定といった理屈がないと作れないし、その労力も増大しています。

――その意味では、西野さんのプロデュースする『戦場のヴァルキュリア』もハイエンドゲーム機であるPS3のゲームです。

西野氏:新機種をやるときは、いつも大変ですが、今のマシンはスペックがすごいから、ついていくのが大変です。何が大変とか覚えてないほど大変でした(笑)。

――PS3でオリジナルタイトルということですが、そのテーマと狙いは?

西野氏:PS3はリアルな表現ができるハードなので、いかにリアルにするかという企画になりがちですが、そこをあえてリアルじゃない映像表現でハイエンドに対応することをテーマにしています。我々は「CANVAS」と呼んでいる水彩画タッチの画面ですが、これをリアルタイムにゲーム機上で表現することでハイエンド機にふさわしい表現を目指しました。技術的にもそうですが、キャラクター、世界観、ストーリーを総合的に突き詰めて、新しいものにしなくてはいけない。そういった部分に苦労しました。

――制作は、かなり時間がかかったそうですね。

西野氏:企画自体は、まだPS3もない3、4年前からありました。『戦場のヴァルキュリア』には、戦場のドラマを描くというテーマもあります。制作は『サクラ大戦』のチームが中心ですが、私たちはドラマチックなゲームを作りたいという思いがあります。いつ死ぬかも知れない戦争の極限状態で、人間ドラマを描きたいという狙いがあった。PS3が出てきて新しい画面表現への挑戦という話があり、ふたつの企画を合わせて間口を広げようと制作されたのが『戦場のヴァルキュリア』の成り立ちです。

――こういうケースは、よくあるんですか?

西野氏:すごく珍しいケースだと思います。新しいハードが登場して、できることが増えたので生まれた企画ですね。もしPS2のままだったら、別のゲームになってたかも知れない。そこはタイミングですね。

――新しいハードは、やはり作るのも大変ですか?

西野氏:PS3における画面作りは、やはり一番苦労しました。PS2の頃よりスタッフも相当多くなりました。具体的な人数は申し上げられませんが(笑)。ゲームというのは、初めから作るものが全部決まっているわけじゃないので、いろいろなものが固まるにつれてスタッフが増えていきます。PS3は初めてなので、最大瞬間人数で言うなら思いもよらない数が動員されました。

――やはり大変なんですね。では、あえて戦場を舞台にした意味はなんでしょうか?

西野氏:ドラマや映画では、戦場を舞台にした作品はかなりあるんですが、”戦場をドラマとして描く”ゲームは、意外とないんですよ。FPSみたいに戦闘中心になってしまうものが多い。『戦場のヴァルキュリア』では、大きな戦場の中の小さな人間ドラマを描くのがテーマです。戦争って、特殊な人がやっている訳ではなく、普通の住人がある日戦争に行くことになって有無を言わさず戦うことになる。今回は義勇兵の小隊が、なんとか生き延びようという物語。ゲームシステム面でも、戦場の中を歩いていく時の1歩進むのが怖いという、そのヒリヒリした感覚を表現するものになっています。「CANVAS」というビジュアル、戦場ドラマ、そして新タイプのゲームシステムの3つがポイントになります。

――ちなみに前評判とか気になりますか?

西野氏:ネットやいろいろな意見はチェックはしています。もちろんそういったご意見は嬉しいのですが、それを見て方針が揺らいだりはしないですね。ゲーム作りというのは、チームを作って確固たるポリシーで進めています。コロコロ変えていたら制作現場の秩序がなくなってしまいますから。それより、近年、ネットなどの影響力が高まっているので、事実ではないことを語られるのが困りますね。最終的には作品で語るべきだと思っているので、とりあえず遊んでみてください(笑)。

――ゲーム業界を目指す人たちの変化を感じたりしますか?

西野氏:これはゲーム業界を目指している人たちだけじゃないと思いますが、全体的にガツガツしていないですね。昔のクリエイターは猪突猛進型が多かったと思います。ゲーム作りも「仕事としてやりましょう」というクールなタイプが増えたような印象はあります。あとは社交的なプログラマーは増えました(笑)。私なんかは、ガツガツしている新人が入ってくると嬉しくなりますね。ゲームに対する飢えみたいなものがなくなったせいもあると思います。

――では、ゲーム業界に向いている人は、どんな人だと思いますか?

西野氏:いろんなことを面白がれる人じゃないでしょうか。例えばバンジージャンプなら、怖いからやらないのではなく、みんながやっているから何か面白いことがあるんじゃないかと思って自分で挑戦して面白がる。そういう人は、きっと面白がらせる力もある人だと思います。世の中のものには、すべてに意味があって積み重ねやノウハウもあって、それを突き詰めて考えるだけでも面白い。そういうことがクリエイター目線につながるんです。

――なるほど。それでは、今後のゲーム業界はどうなると分析されますか?

西野氏:ちょっと前からですが、ゲームはすでに特別なものじゃなくなったんです。ゲームならなんでも面白く感じてもらえた時代が終わり、本を読んだりテレビを見たりという日常と同じレベルになった。これはいい部分でもあるし、難しくなっている部分でもある。そういう視線でゲームを作らないといけない時代になっています。でも、そういう時期だからこそ面白がれる力が必要なんだと思います。

ハード撤退は大きな衝撃だった。だが、同時にクリエイターとして新しい挑戦にワクワクした。

――セガは、西野さんにとって、どんな会社なんでしょうか?

西野氏:さっきの『ゲーム図書館』じゃないけど、セガはいつも早すぎるんですよ(笑)。『戦場のヴァルキュリア』もそうです。PS3で完全オリジナルの大作なんて、普通はなかなかやらないでしょう。でも、前のめりにチャレンジするところがセガのいいところです。時々、何だこれは!っていうのが出てきて、それをしっかり製品にしてヒットさせる力もある。『龍が如く』の企画を初めて聞いた時は、身内でありながらすごいなあと思いました。ヤクザが主人公って尋常じゃないですよ(笑)。結果、今や大ヒットシリーズですからね。

――たしかに新しいジャンルというか新しいタイプのゲームを生み出していますね。

西野氏:『ムシキング』でキッズカードという新しいゲームスタイルを作ったり、『サクラ大戦』でアニメとゲームを融合させた作品を生み出したり。いくつもオリジンというべき作品が出ています。自分も、そういうものを作りたいですね。

――同時に、セガという会社は山あり谷ありだったと思いますが……。

西野氏:私自身は、作り手としての意識が一貫していたので、会社組織が変わったり分社化もあまり関係ありませんでした。ゲームを作るという意味では、やり方や考え方は変わらなかったです。個人的に一番大きかったのは、ゲームハードから撤退したことです。とにかく衝撃でした。いまだに次のハードやりたいよねって話は、個人的なレベルでたまにしたりしますもん。でも一方で、クリエイターとしては「セガがPS2やゲームキューブのゲームを作るの?」という新しいドキドキ感もありました。「PS2を立ち上げたら、セガのロゴ出てくるんだろ」みたいな。この世からゲーム機がなくなるなら別のことを考えますが、ゲームを作るということは揺るがないですね。

――最後に、今後のゲーム業界についてのお考えを教えてください。

西野氏:まずゲームハードがどうなるかという問題があります。『Wii Fit』を見ていると、もうゲームじゃないですから。ああいったタイプのソフトがトップセールスになることに複雑な気持ちはあります。私自身もカジュアルなタイトルを作ったりしていますが、カジュアルユーザーをメインストリームのゲームに向けさせるための材料になればと思ってます。やっぱり最後は『戦場のヴァルキュリア』のようなゲームらしいゲームをやってもらいたいという気持ちはありますね。

――ありがとうございました。

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